「椿山課長の七日間」(浅田次郎著)の感想など

すでに6月になろうかという時期ですが、2〜3月頃読み終わりました。

出会い

先日読み終えた「永遠の0」mixiレビューで辿っていくと、レビューをちらほら見かけてその中身も好感触だったので興味を持ったのが始まりです。早速天神の積分館で購入し、読み始めました。

読書後の第一印象

小説は裏表紙のあらすじをまず読む性質なので大まかな話の導入部分はわかっていたのですんなり入り込むことができました。小説自体の読みやすさもあってのことだと思います。そしてその先どうなっていくのか楽しみで、すらすらと読み進めることができるので最初から最後まで苦になることはありません。

感想

現代の様子を反映した黄泉の国は詳しい知識もなく読み進めることができ、よみがえりキットなる茶目っ気と筆者のユーモアもあって眉をひそめることもありません。

その中で印象に残ったのは文庫版p278 献杯のl12前後です。

自己表現のできない女は損よ。大人の女なら必ずしも自己主張をする必要はない。でも、自己表現はしなくちゃだめ。主張は権利だけど、表現は義務。そのあたりをはきちがえると、上司に誤解されたり、部下に嫌われたり、同僚にうとまれたりする。実力も努力も正当に評価されない。

ああなるほどなぁと思いました。この引用では女性を指していますが、男性にも当てはまると思います。私自身、仕事で上手くいっていないこともありこの内容が嫌と言うほど身にしみました。

この本のタイトルは「椿山課長の七日間」であり、主役は椿山和昭でしょう。しかし主役は3人いてそれぞれの視点を織り交ぜながら物語は進行していきます。そしてその3人を取り巻く人々もまた主役でありそれぞれの人生が営まれているのです。その様子を3人の視点から、そして時にはその3人を取り巻く人々の視点で描いているのが本作というわけです。

一人の人間の生死と、それを取り巻く人々の生活。これを生きているうちに考えることは希ですが、複雑な人間模様がわかるような気がします。生と死をユーモアを交えて書いてあるので読みやすいと思いますので、手にとって読まれることをおすすめできる作品です。

考えたこと

働くということ生きるということ、その中で特に上記の引用が心にとまったのです。自己主張も自己表現も苦手な私だからこそ、働いている状態だったからこそその引用が特に心に残ったと考えることができます。この作品を読んだ2〜3月はまだ働いていたことは「永遠の0」の感想で書いたと思います。そしてこの感想を書いている現在は情けなくも無職です。

まだ部下(後輩)がいるような状況ではありませんでしたが上司や先輩に誤解されることも多々あり、生きることが働くことが非常に辛い時期でもありました。それを乗り越えることができず退職したというのは頑張りが足りなかったとか根性がないとか言われることもありますが、本人にしてみればこの世の終わりのように辛い時期だったのです。このことをわかっていても自己表現をするということは非常に難しく感じます。

現代という社会が自己主張の場であり、行わなければ淘汰されていくというのも理解できます。そして主張をしなければ損をするというこの現状を踏まえれば、いかに主張をして権利を振りかざす必要があるのかということもわかります。それでも全ての人間が総じて得意なことではないというわけです。

最後に

特に今回は自分自身の現状を織り交ぜて感想を書いたわけですが3人の織りなすお話はとても面白く、人々の秘密に触れることができます。そして最後の最後は椿山課長のお父さんが格好良い行いをし、一緒にリライフしたヤクザさんの可愛い子分を思ってのその行動が招く結末に涙せずにはいられません。椿山課長の最期も見ることができるので、興味を持たれたらぜひ読まれて欲しい作品です。